なんのこっちゃ、というタイトルは日本語としての正確さには欠けますね。
ちゃんと補間するならば「SDカードに記録したデータは時間の経過とともに蒸発しはじめてしまいます」というところでしょうか。これでもまだ不親切な言葉の並びではありますが。
■蒸発=製品の寿命ではない
まずデータの蒸発とはなんぞや?という重要な点ですけれど、これはSDカードに限らずUSBメモリやSSD、あるいはスマホ本体メモリ(スペック上はROMなどと表現される部分)など多種多様な製品に使用されているフラッシュメモリの本来の特性がそうさせています。
ときどき、ネット界隈ではこのことを書き換え寿命と混同されているような説明が見られますが、根本的に書き換え寿命や製品寿命とは関係ない要素となります。
■寿命とはなにか
遠回りな説明になりますが、まず寿命と呼ばれるのは「書込みできなくなる」あるいは「書き込んだデータをすぐ保持できなくなる」ことが症状として現れます。
一般的にフラッシュメモリではフローティングゲートの場合にはデータを書き込む際にトンネル酸化膜の劣化が物理的に生じることから、書き換え回数によって徐々に壊れていく構造ともイメージできます。(チャージトラップの場合には原理的には改善されているようですが)
この物理的な寿命に到達すると、書き込みたいデータが正常に書き込まれない、あるいは書き込んだデータを正常に保持できないという状態になることから完全に使用不可能になります(=書き換え寿命=製品としての寿命)
■SDカードの蒸発とはなにか
話しを戻し、蒸発というのはどういう状態かと言うと「記録していたデータが勝手に消失している状態」を言い表しています。
ただし現実にはカード内の情報がすべて完全に消えてしまっている状態を経験するよりも「部分的に消えている=壊れている状態」を経験することのほうがはるかに多いのではないかと思います。
目の当たりにする症状としては「写真が半分ベタ塗りになっている」「動画のノイズが酷くなっている」「ファイル名が崩れている」「フォーマットを促される」といったものとして現れる事が多いように思われます。
もちろん前述のような症状はデータ蒸発以外の要因によっても引き起こされますから、症状だけで原因を特定することは難しいのですが。
■なぜ蒸発が発生するのか
この蒸発の原因についてよく言われる原因としては、フローティングゲート方式の場合にはトンネル酸化膜の劣化によって電子が漏れ出してしまったり他のフローティングゲートに電子が流れてしまう点があり、チャージトラップ方式の場合には高温になると保持している情報が壊れやすいという点が一因とされています。
しかしそれ以外にも回路形成時のごくわずかな不具合が引き金となるケースも考えられるので、けっして長期間使用して劣化しているから、とか、高温環境に放置したから、という点ばかりが原因とも言い切れないようです。
■どのくらいの期間で発生する
利用者視点でもっとも気になることと言えば、データの蒸発症状はいったどのくらいの期間で発生するのか、ということになるでしょう。
経験則から言うと数年の範囲、もう少し具体的に書くならば2~3年の範囲で発生し始めると考えておいたほうが良いと思われます。
データ保持期限に関連するような要素は設計世代にも大きく絡む話しになり、10年や20年ほど前に設計・製造されていた商品のほうが今よりもはるかに長い期間データを保持できる実力があったものと考えられ、実際に私共の実験室で保管されている個体についても古いものほど優秀な成績を出す傾向があります。
ですが、その実力があるはずの昔の世代のもの(2GB以下の容量のSDカードやUSBメモリ)についても弊社に寄せられる割合が徐々に増えているようにも見られますので、いくら長期間のデータ保持実力があっても限界というものは必ず訪れるものだと理解いただければと考えます。
■さらに困ったことも
前述までは記憶原理的な要素だったのですが、さらに困ったことにSDカードやUSBメモリの大容量低価格化の弊害でとても品質の悪い製品や容量偽装品といったものまで少なからず流通するようになってしまいました。
これらも、使用開始当初から使えないというレベルのものはそうそう当たらないのですが、使いはじめてからごく短期間(数日から数ヶ月ほど)でなんらかの不具合が露見してしまうことがあります。
容量偽装など本来記憶できるはずのない容量付近までデータを書き込んだ際に突如としてそれまで記録してあったデータがすべて壊れてしまったり、記録できたはずのデータがいつの間にか消えていたり、場合によっては二度とカードが反応しなくなったりと様々な症状で寄せられるケースを拝見していますから、安価で良い銘柄のものが手に入ったと喜んでいて短期間で痛い目にあってしまうという事の無いようにくれぐれも購入先や極端に安価なものには手を出さないなど自衛策を張り巡らせていただきたいところです。
■注意しておくことは
SDカードでもUSBメモリでも、フラッシュメモリという記録媒体を使用している以上はかならずデータが消えてしまうものだということを知っておいていただきたいです。
もちろん他の媒体、たとえばDVD-RやHDDでも読み取り不能となるような不具合は発生するものなのですが、とくにフラッシュメモリ媒体においてはその発生頻度が高く、また大容量化に伴ってデータを保持できる期間も相対的に短くなる傾向にあります(メーカーサイドではあくまでも一般的な使用期間に影響を及ぼさない範囲で改良しているという言い方ではありますが)
SDカードやUSBメモリはあくまでもデータの一時蓄積場所であって、機器間でデータを手軽に持ち運ぶための手段の1つとして設計されているものです。そのため長期間データを記録したままにするという使い方は本来想定されておりません。
そのため利用者としては必ずSDカードやUSBメモリにたいせつなデータを置きっぱなしにせず、たとえばカメラで撮影に使用したSDカードであればなるべく早い段階でHDDやDVDなどほかの媒体へとコピーをとる習慣をつけておくことが今のこの時代においても大切なこととなります。
壊れ始めたと認識した早い段階であれば弊社の復元過程で対処も可能ですが、壊れかかっているカードをパソコンやカメラに接続しつづけたり、データを追記したり、復元ソフトを試したりとあれこれ手を出しているうちに対処不可能となってしまう事例も少なくありませんからくれぐれもご注意いただければと考えます。
※メーカーサイドではデータ保持寿命と表現されていますが、この文中では異なる2つの指標で「寿命」という言葉が重複し混乱することを避けるためあえて「期限」と表現しています。
※別途注記がある箇所を除きすべてNANDフラッシュメモリを前提に記載しております。製品形状の代表例という意味合いでSDカードやUSBメモリと表記しておりますがもちろんその他XQDやSSDなども同様です。
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